4月20日〔土〕
前日に友人と酒を飲んだ俺は、テレビを見ながらまったりと土曜の朝を過ごしていた。
床屋でも行ってくるか、などと思いつつ、うだうだしているとき、親父から電話が入る。
”おはよう、何してる?”
”別に、何も”
”こっち顔出せよ。昼飯まだだろ。一緒食おうぜ。何時ごろ来れる?すぐ来れるか?”
俺は床屋に行ってさっぱりしてから親父に会いたかった。
”なんで?急ぐの?”
”実は市場で買ってきて欲しいものがあるんだ。”
”そうなんだ、いいよ。12時くらいだけどいい?”
今は10時50分くらいだ。
”いいよ、じゃ、待ってる。めし食わないで来いよ。”
俺は歩いて10分ほどのところにある、1900円の床屋へ向かった。
土曜の午前中なんて、いつも混んでるのに今日に限って待たずにやってもらえた。
30分ほどでカット、シャンプー、髭剃りも終わり、再び10分歩き。家に帰った。
さっぱりと男前?になった俺は親父の焼き鳥屋へ向かった。
”早かったね”
時刻は11時45分だった。
”飲むんでしょ、めしの前にいいかな?”
”いいよ。”
俺は親父のお使いで、足らない肉を買いに市場へ行った。
いい奴だ、俺。
30分程で帰ってきた。
スーパーで惣菜とサワーを買い込み、親父の小屋の中で一緒に飯を食った。
飯を食い終わり、店も暇なので、親父は新聞を広げて読んだ。
記事の内容は、どうでも良かった。
広げた新聞のその下で、親父は俺の股間に手を伸ばしてきた。
新聞で隠れているとはいえ、小屋のすぐ前をスーパーの客が行き来する。
親父は周りに気を配りながら、俺のズボンのファスナーを下ろし、直に俺のチンポを握ってきた。
”お前のチンポ好きだ。”
親父は激しく右手を動かし、俺のチンポはギンギンになった。
俺も、新聞の下で親父のももをさすり、ズボンの上から親父の股間にいたずらした。
そんな時。
”注文いいですか?”
と、お客さん。
親父、何食わぬ顔で、俺に新聞を残して立ちあがり、注文を受ける。
親父はエプロンをしているので勃起してたって平気で立てる。
俺のチンポは新聞の下、 勃起した状態で顔を出している。
俺は勃起が収まるのを待って、チンポをしまうと一旦家に帰ることにした。
”また、夕方来るから。”
今夜、ゆっくり楽しもう。
何も知らない俺は、そう思って店をあとにした。
親父だって、そう思っていたはずだ。
なのに。
4月20日〔土〕
夕方6時。 パソコンの掲示板にコメントを書き終えた俺は、自分の投稿文のプリントアウトした物の一部を持って、車で親父の焼き鳥屋に向かった。
今日は土曜日、焼き鳥屋のあるスーパーも昼間来たときはすいていたが、夕方になって混み出したらしい。 親父は忙しそうに働いている。 ”繁盛してるね。” ”夕方から焼きっぱなしだよ。” ”結構(売上が)行ったんじゃない?” ”いやぁ、忙しいばっかりで、昼間だめだったからね。 待ってろ、早めに閉めちゃうからな”
待つ間、俺は自分の車の拭き掃除をしたり、車の中で音楽を聴いたりして過ごした。
7時半頃、親父は店の灯りを落として片づけをはじめ、そして、8時頃親父は店を片付け終わった。
”何食う?とんかつでも食うか” 俺と親父はそれぞれ自分の車に乗り込み、インター近くのとんかつ屋へ向かった。
店は満席。席に付くまでだいぶ待たされる。 10分ほど待ち、席に通される。席に付いてすぐオーダーを聞かれる。 ここの店、変なところで行動が早い。 親父はダブルロースかつ定食。俺も親父と同じ物を頼む。 そこから、さらに待たされる。
”あいつ、電話入れてこない。浮気してる、絶対。” そう言いながら、着信のチェックを入れる親父。 (浮気してるのは、あんただろ)
腹が減り、お互い眠くなりながら、出来あがるのをひたすら待つ。空腹と疲れで会話も途切れがち。 かれこれ20分待ち、ようやく1つ出てきた。 連れ立った客が同じ物注文したら、だいたい同時に出すよな、普通。 普通じゃないのがこのお店。
”先食っていいよ。” 親父の言葉に甘えて、ちょいとお先にいただきます。 ”接客、なってないな。二度と来るか、こんな店。” (それは俺も同感)
しばらくして親父の分も出てきた。黙々と食べる二人。 親父がだいたい食べ終えた頃、親父の携帯電話が鳴った。
”もしもし、今どこ?” 電話の相手は親父の彼氏。どうやら近くまで車で来ているらしい。 ”誰かと一緒か?” 自分のことを棚に上げ、彼氏の浮気を疑う親父。 親父は、スーパーの駐車場に車を置きに行って、彼氏の車で一緒に帰る事にしたようだ。
解ってる。全部解ってる。 俺は親父の遊びの相手。 好きだよって言ってくれても、愛してるって言ってくれても、本気じゃないって解ってる。 そんなこと、全部解ってて本気になったのは俺のほう。 だめなんだ。止められないんだ。この気持ち。好きだよ、親父。愛してる。
親父は二人分の食事代をテーブルに残し、 ”ごめん、先出る” と言って出ていった。
一人空しく取り残された俺。 ”お下げします。” 二人の関係など知らぬ店員は、親父の食器をさっさと片付ける。
俺っていったい何なの? 哀しくなる。
ゆっくりと残りを食って、俺も店を後にする。
店の駐車場には、まだ親父の車が止まっていた。 彼氏はもう来たのかな? 彼氏が乗っているかもしれない。 親父の車には近づけない。
声もかけられず、俺はすっかり他人となって、その駐車場を後にした。
散々待った挙句、目の前のご馳走をかっさらわれた。
”あなたが、好きだからそれでいいのよ。” テレサテンの愛人の歌が頭をかすめる。 ”奪えるものなら、奪いたいあなた。そのために誰か泣かしてもいい。” 島津ゆたかのホテルを地で行く俺。
今ごろは親父と裸で抱き合っているはずのこの俺が、今は一人の帰り道。 哀しい。本当に哀しい。 温和な(鈍感な)俺は怒ったりしない。 怒りは全く込み上げてこない。 ただただ哀しく、寂しい気持ち。
こうなったのも俺のせい。 彼氏持ちの親父を愛した俺のせい。 こうなったのも俺のせい。 人のものに手を出した俺のせい。 だからこれは、当然の報い。 不義理なことした当然の報い。
そんな中,親父から電話が入る。 ”ごめん。怒った?” ”怒ってない。ただ、哀しい。” 親父の声なんか聞いたら、涙が出そうになる。
”あいつの車で帰るんで、今車置きに行くところ。” 一人で車に乗ってるから、今、電話してきたんだね。 ”今度埋め合わせするから、ごめんね。” ”うん、わかった。(次の機会を)待ってるから。”
こんなこと、解ってたのに。こうなるって事。 実際、こんなことがあると、本当に惨めだ。 親父は俺の親父ではない。 親父は今、25歳の彼のもの。
”何もあの人だけが世界中で一番 優しい人だと限るわけじゃあるまいし 例えば隣の町ならば隣なりに 優しい男はいくらでもいるもんさ”
ここまで打ってとうとう涙が溢れてきた。
いいよ、俺は大人の男。 割り切った大人の付き合いが出来るクールな男。 すべてお遊び。 男同士の付き合いはさらっとしたのがいいところ。 男と女の関係みたいにどろどろしてちゃいけないぜ。
だから、すべてを割り切って、これからも俺は、決して実らぬ親父との関係を続けていく。
だけど、いつかは。
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