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大きな先輩小さな後輩(3)
アライグマさん 投稿日:2003/09/03(Wed) 00:54    Back Top Next


「大きな先輩小さな後輩」 第3部

 個室に入り、壁にもたれ掛かった毅先輩の前で跪いたたかしが、恍惚な表情で顔を前後に振っている。言葉の端々に粘りがある口調そのままに、先輩のモノにねっとりと舌を絡ませるたかし。ツボを心得たたかしの舌使いが、毅先輩の巨体をわななかせ、剛毛生い茂るその股座から、甘美な刺激を、体の隅々まで波及させていた。体中に飽和した快楽が先輩の歪む口から漏れだしてゆく。
 「おおぉ、た、たまらんなぁ」
 長年の集荷で、皮の厚く張った手のひらを、気持ちよく刈り込まれたたかしのうなじに添えて、優しくさすりながら、毅先輩は膝を落とした男を見据えている。男が顔を引けば、唾液にまみれた先輩のモノが室内の照明を艶めかしく反射させ、そして男を歓喜させる生物が蠢く闇の中へ、再び飲み込まれてゆく。
 「あぁぁ、いいよ。た、たかし、もう少し強く吸ってくれんか?」
 たかしは息を荒げる先輩を一瞥すると、腰に廻した両腕にグッと力を込め、喉元深くまで先輩のモノをくわえ込んでいった。
 「うぐぅ、あぁぁ・・・」
 俺の頭の中で悶絶する毅先輩。俺の頭の中で毅先輩を悶絶させるたかし。二人の大男たちの前で、為す術もなく、俺は個室の片隅で呆然と突っ立っていた。烈火の炎に見舞われる俺の体に、たかしが更に油を注ぐ。先輩のモノをチュルンと弾き出したたかしが後ろを振り向いて俺の顔をみる。濡れそぼる口元が一段と際立って、俺の目を捉えて離さなかった。そして、一言だけ「ごめんね」と言い残して、再び先輩のモノへむしゃぶりついていった。

 なぁ、たかし?ごめんねって何だよ?
 −ごめんね。毅さん、僕の筆おろしが一番だって、いつも指名してくれるから・・・
 −ごめんね。僕も毅さんの事、好きだから・・・
 って言いたいのか?

 「いつまでもしゃぶってないで、ハッキリ言えよ!」
 別世界に陶酔しきっている二人に向かって、俺は思わず罵声を浴びせていた。けれど、俺のそんな声も先輩達にとっては、蚊の泣くような声にしか聞こえなかったのだろう。たかしは、うっとりと先輩のモノを頬張り続け、毅先輩は、その感触に目を閉じて悦び続けていた。

 先輩、聞こえないの?声帯が潰れそうな程に張り上げている俺の声を。
 先輩、感じないの?今にも発火しそうな程妬いている俺の体温を。


 いつの日か見たあの絵のように。夜の帳に包まれた広大なサバンナに、威風堂々と体を横たえる一匹の野獣のように。満天の夜空に鏤められた無数の星を結ぶと、空の彼方へ移住していった沢山の仲間の姿が浮かび上がる。それ程遠くはない、未来の地球を描く画家の腕の中で、彼はただ一人物憂げに佇んでいた。昨日までの威光を胸に、弧高の獅子は今日も吼える事ができるだろうか?傍若無人で、些細な事にも唸りをあげていた俺は、我欲を貪る2匹の雄を前に、もう一度咆哮をあびせることができるだろうか?
 今では彼だけの月光が、彼一人の大地に、彼の鬣(たてがみ)一本一本をも克明に描いている。
 褪せた大地に映る影がスッと伸びた。
 枯れた大地に爪を立て、彼は大きく息を吸った。
 そして天を仰ぎ、かつての百獣の王は吼えた。
 憂いの遠吠えは、虚空の夜空に響き渡り、闇夜に消えた。
 「先輩、目を開けてくれよ。刹那の悦びに耽るのを今すぐやめろよ。先輩...俺が見えない?お、俺...いつだって先輩の直ぐ近くにいるんだよ…」
 色無き風に胸を突かれる思いは、恐らくあのライオンと同じなのだ。争いを忘れた野犬の遠吠えは、やはり先輩のもとには届かなかった。


 「ごめんね。毅さん、お店では下品なことばかりいってるから…。耕太くん、顔が真っ赤だけど、もしかして気を悪くした?」
 口元が大いに緩んで今にも吹き出しそうなたかしが、俺の膝をポンと叩いて言った。気が付けば先輩たちは、各々のドリンクに手を付けていて、毅先輩に至っては既にグラスの半分を空けていた。当然、舌の回転に拍車が掛かる。
 「そんな事で気分を悪くする性分じゃないって、なぁ?『先輩っ、俺、高校卒業以来、女と縁遠いんっすよ』らしくない、過剰反応な所を見ると、こりゃぁ、相当溜まってるな?あぁ、もしかして、耕太?たかしにしゃぶってもらいたいんじゃないのか?」
 「違う違うっ。『先輩っ、俺、女に色々気を遣うの面倒だから、当分一人でいいっすよ』だろ?」
 俺の口癖を真似た毅先輩に近藤先輩が続けた。声を張り上げるだけの毅先輩に比べて、近藤先輩は、ポイントを絶妙に捉えていて、当の本人としては感心するどころか、妙にこっぱずかしくなる。それを聞いていた中島先輩が、呑み込んだ煙草の煙を、笑いに乗じて吐き出しながら言った。
 「俺が耕太の年頃の時は、たった一発の為に、随分と女に金と気を遣ったもんだけどなぁ」
 俺の身の上も知らないで、大きく頷く先輩たち。毅先輩は、グラス半分の水割りを一気に飲み干すと、一段と大きく広げた鼻孔から思いっきり息を吸い込んで、そして俺に向かって一気に吐き出した。
 「ここなら、気も金も遣わんでいいぞー。耕太は溜まってる、たかしは、耕太が気に入っている。利害関係の一致するお二人さん。そうとなりゃ、ここで生板ショーとでもいきますか?さぁ、耕太。早くズボン脱げや、たかし、おしぼりおしぼり!」
 「ねぇ、先輩って、他の居酒屋とかでも、こんな悪ノリするの?耕太君も、困った先輩抱えて大変だねぇ」
 目の据わった先輩を余所に、たかしが俺に微笑みかけてきた。そして、弾ける気泡に些か翳りをみせる俺のカクテルを持ち上げると、コースターに滴り落ちた水滴を手持ちの布巾でサッと拭い、勧める様に再び俺の前に置いた。無色透明の中で、泡に包まれた赤いチェリーが映えている。
 「早く飲まないと、気が抜けちゃうよ。ほらほら、姦しい先輩達に負けてちゃだめじゃん。僕も後方から援後してあげるからさ」
 俺は初めてここでカクテルのタンブラーを傾けた。先輩に負けじと半分くらいまで一気に飲めば、案の定、ジンの割合の高いカクテルに、俺の首筋が熱くなる。

 以前、先輩が言っていた。「ものは考えよう」だと。ここは、毅先輩の希有な発言にならって、楽しく酒を飲もうと俺は考えた。同じ時間を過ごすのなら、勝手な憶測に気を揉むのはやめて、先輩の笑顔に酔いしれようと。いらぬ妄想を遮断すれば、未だくすぶり続ける俺の心も、いずれは鎮火するだろう。酸素の供給を絶たれた炎の様に。
 俺は火種を外気にさらさないよう、胸の奥底へ押し込み、感情を殺す。そして平静を装う。それが一触即発の危機を招いている事にも気が付かず、俺はグラスを傾け、残りの酒を一気に喉に流し込み、先輩たちに宣戦布告をした。
 「先輩、俺らの年代の女って、妙にプライドが高いんすよ。別に女も悪い思いするわけじゃないのに、なんで男が率先して金払わないといけないんっすか?」
 「それを算段しても、女にゃ、有り余る物があるけどなぁ。お前、若い割には淡泊な奴だなぁ」
 「こりゃ、毅のいうとおりだ。耕太は女にゃ、欲情しんのか?」
 徒党を組んだ中島先輩と近藤先輩が俺ににじり寄る。言葉に詰まる俺を、背後から援護射撃してくれたのがたかしだった。
 「そうそう、耕太くんの言うとおり。そのプライドを崩すために遣うお金や時間って無駄だよねぇ。その点、男同士は欲求に忠実だから楽。場所だって、その気になれば公衆便所だってOKなんだしね。ただ、バックする時には、ちょっとお手入れが必要なのが、難といえば難ねぇ」
 先輩たちの顔が緩む。俺も猜疑心から幾分解放されつつあったためか、気持ちに余裕ができ、笑う先輩たちに声を揃えた。
 「耕太はさぁ・・・」
 酔いが廻った毅先輩が言い淀む。耳の先まで朱色に染まった先輩を見ていると、俺の体まで仄かに赤みを帯びてくる。綺麗と形容しても良い掌を見詰めながら俺は思う。恋する乙女の気持ちは、いつもこんな色になぞらえられる。手弱女ならいざ知らず、益荒男を理想とする俺にとってこの現象は、正に汗顔の至りであり、それが皮肉にも益々俺の体を赤く染め上げていった。それでも、不思議と悪い気はしなかった。
 「耕太はさぁ・・・。本気で女を惚れさせた事がないんだよ。それに、本気で惚れたことがない。惚れた者同士に駆け引きなんかあるもんか。女もなぁ、惚れた男には結構貪欲になるもんだぞ。ま、口だけ達者の、幼けない耕太にはまだわからんか」
 「わ、わかりますよ。俺だって惚れた奴には欲情もしますよ。それに相手が喜ぶ事なら、俺はなんだってする。ただ・・・」
 「ただ・・・なんだ?」
 口を閉ざした俺を、やも楽しそうにのぞき込む毅先輩。
 「ただ、振られるのが恐いんだろ?情けないやっちゃなぁ、お前、それでもチンコついとるんかぁ?」
 「違うって!ただ、今は好きな子がいないだけ。そうでしょう?ちゃんと人の話を最後まで聞きなさい。耕太くんは、好きな子のためなら、何でもするって言ってるの。ヤルためなら、何だってする、先輩方とは、一線を画しているんだから。ねぇ?」
 間髪入れずのたかしの応戦に、俺は感嘆しきりだった。それでいて、俺たちの飲み物にはしっかりと目配せをしている。俺ならきっと、客のグラスを空けたまま、話に夢中になっているに違いない。
 「男って生き物は平気で自分の事だけは棚に上げるからねぇ。毅さんも随分と男前なこと言ってるけど、本当は結構遊んでいるんでしょう?」
 たかしは俺の空いたグラスを少し傾けた。角張った氷は今では丸みを帯び、俺の心境の変化を象徴しているようでもある。一時でも強く抗ってしまった事を、「同じのでいい?」と訊くたかしの笑顔に、俺は少し詫びた。そして諸刃の剣を握り締めた俺は、一矢を報いてくれたたかしに続けた。俺の中に燻る炎を完全に消してしまいたい、例えもうそれが虫の息で、あと僅かの時間で消え入ってしまうのだとしても、その時間を待つことさえも憚られた俺は、毅先輩にかまをかけてみた。
 「そうっすよ、先輩。女も男もお構いなしに遊んでたら、奥さん泣いちゃいますよ!」
 結果的に俺は、峰のない刀を扱い倦ねてしまったんだ。


 「ねぇ。主人公って大変だよね。いつも災難にあってばかり」
 スタッフロールが流れる中、彼女が俺の耳元で囁いく。艶を帯びた、長い黒髪が良く似合う子だった。俺が高校生の頃、自分がゲイと半ば自覚しつつあった頃、それでもその気持ちを強く否定して異性と連れ立っていた頃。当時、話題になった映画のワンシーンが俺の中で蘇る。
 激しい火災に見舞われた建物の内部には、一酸化炭素が充満していた。密閉された空間には酸素が欠如し、猛威を振るうその炎も、今では虫の息ほどに静かに佇んでいた。だが、閉ざされたドアを開けた瞬間、大量の酸素が一気に流入し、大爆発を起こす。
 外気に触れぬよう、固く閉ざしていた俺の心の扉は、予期せぬ先輩の疾風迅雷の一言で、あっけなく開いてしまった。

 「だってしょうがないだろ?うちの母ちゃん、滅多にしゃぶってくれないんだからさぁ」

 瞬時に体中の血液が沸点に達する様な感覚に、俺は懐かしい既視感(ディジャブ)を覚えていた。それも束の間、体内で発生したバックドラフトで、俺の体は再び烈火の炎に包まれていった。


Angel pakuri > いいリズムになってきた。 (9/3-12:20) No.381
taka > アライグマさんてバスの運転手さんとの話を書いてた人ですか? (9/6-09:54) No.383
Angel pakuri > ピンポーン!……です。 (9/9-19:15) No.384
アライグマ > パクさん、レスかたじけないです。 takaさん、こんばんは。初投稿から、はや2年経ってしまいました。時間が経つのは、あっと言うまですね^^; (9/10-21:18) No.385


アライグマさん 投稿日:2003/09/03(Wed) 00:54       Back Top Next
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