■ ぱくりのお気に入りお宝集 ■ ◆オリジナル作品シリーズ◆
大きな先輩小さな後輩(2)
アライグマさん 投稿日:2003/08/28(Thu) 23:52    Back Top Next


「大きな先輩小さな後輩」 第2部 


 入社して2年目の忘年会。社全体での忘年会を終えた後、その翌週に5班だけの内輪の忘年会があった。進行役の班長の毅先輩、その他の先輩、そして最年少者であった俺を含めて、全員で7名という小部隊だったけど、忘年会だけに限らず、月に1度位は班員だけで飯を食いにいっていたりしてたから、随分とお互いに気も触れていて、楽しい忘年会になった。1次会の居酒屋を、来年の抱負と共に班長が1本締めで締め、その後をどうするかと思いきや、毅先輩、出来上がった口調でこう切りだしてきた。
 「歌も歌いたいなぁ、酒もまだみんな足りんだろぅ。耕太ぁ、ゲイバー連れてってやるなぁ」
 目を充血させた毅先輩が、俺の顔を見ている。俺も酒でだいぶ上気気味だったけど、先輩の提案には、その酔いも一瞬にして醒めてしまった。先輩のいうゲイバーというのは、俺がいくゲイのスナックとは恐らく違う。ノンケ男性や女性客を対象にした、いわゆる世間でいうオカマが接客をするお店なのだろうけれど、俺の住む街には、それらの歓楽街は一カ所に集中していて、ひょっとしたら顔馴染みと鉢合わせるかもしれない。そんな思いが、一瞬にして俺の頭の中を駆けめぐった。
 1次会での時間も押していた事もあり、結局2次会まで参加するのは、毅先輩と俺、そして中島先輩と近藤先輩の4人に絞られてしまった。ここまでくると、諸先輩方には本当に失礼だが、毅先輩と俺、2人だけにしてくれという不埒な思いで一杯だった。
 寒いという建前で、毅先輩のでかい体の影に身を潜めながら、知人の目に触れないことを一身に、賑わう雑踏の中を歩いていった。そして、九死に一生という思いでようやく先輩のいうゲイバーに辿り着いた。

 週末に連れと訪れるゲイスナックとなんら変わらないじゃないか…。絢爛豪華なドレスを身にまとうはずの店員は、店のロゴが胸元にワンポイントで入った白いポロシャツに、脚のラインが際立つスリムのジーンズ姿。俺の予想では艶やかなメイキャップを施し、仕上げにウイッグで見事に変身した、本物の女性顔負けの店員たちの姿がある筈だった。そして、より美しく見せる為の化粧を、より醜悪に見せる為に使う店員の姿 −大抵の場合、随分と立派な体型をしている− も見当たらなかった。
 無数の流星を作り出すミラーボールも、重厚感のあるソファーも、暖色系を多用した店内の装飾も店内には見当たらず、その総てがテレビというメディアに刷り込まれた想像の産物だった。とはいうものの、男限定のスナックとは幾分その様相が異なっているのも確かで、OL風の女性が、連れ添う男の横でマイクを握りながら、懸命に画面に映し出された文字を追っていた。ガラスのテーブルに目をやれば、色とりどりの果物が盛られた皿も置いてある。広々とした店内、若干光度を増している照明。40代の口髭を生やしたマスターと、バイト一人でまかなう、俺がいつも行くスナックに比べ、数多の店員が忙しなく体や口を動かして接客にあたっていた。この盛況ぶりからいけば、出勤したばかりの新たな店員が襟元を指先で整えながら、カウンターの奥の簾から今にも顔を覗かせそうな雰囲気だった。「おはようございますっ」と。

 俺たちはポロシャツの左胸に“たかし”というネームバッチを付けた店員に、一角だけ空いていたテーブル席へ案内された。何度も来店しているせいか、先輩たちは戸惑うことなく各々に飲み物を注文すると、たかしという店員を含め、一同に俺の顔を伺う。
 「耕太は何飲むんだ?よかったら、バーボン入れてるから、一緒に飲むか?」
 一次会での酒が未だ残る毅先輩が、充血した両目を俺に向けて訊いてきた。
 「あっ、いやっ。えーっと、俺…、ウイスキーは苦手だから…。うーん、それじゃジントニックください」
 飲み慣れていないウイスキーでも、先輩が口移しで飲ませてくれるなら、俺は喜んで飲むんだけどなぁ…と独りよがりな妄想に耽ってしまった為、思わず舌足らずな返答になってしまった。
 「はい、ジントニックね。うふっ、可愛いわね」
 注文を訊き終えた青年は、不審な笑みをこぼし、足早にカウンターの中へ入っていった。

 もう一度、店内を見渡す。案に違い、化粧こそしていないにしろ、接客する男たちの姿はどことなく女っぽい。店員一同、昨日、今日散髪に行ったばかりの様に、短く刈り込まれたうなじが綺麗なラインを見せている。秋刀魚に大根おろし。カレーライスに福神漬け。短髪と言えば………髭。
 この世界にとって、比較的需要が高いその風貌は、不思議とこの店には見当たらなかった。店の色を出す為に、マスターの一存で決められている事なのかも知れない。この点も、俺が常連として顔を出すスナックと大きく異なっていた。勿論、ノンケに目の保養は必要ないのかも知れないが、今こうしてノンケの振りをした隠れゲイには実に惜しい事実だった。が、店に入ったばかりの時には後ろ姿の為に気がつかなかったが、こうしてソファーに腰掛け、カウンターに目をやると、一カ所だけ例外がある。カウンター越しの店員と、顔の筋肉を綻ばせながら、談笑している2人の男。空っ風が吹き荒ぶ季節だというのに、揃いに揃ってショートパンツを履いた髭面の男たち。いつも顔を出すスナックで顔なじみになった彼らが、その席にいた。
 ―僕たち、付き合い始めてもうすぐ一年になるの− と、こちらまでその幸せの余波を受けてしまう様な笑顔は、確かに見ていても悪い気はしない。俺が先に友人と飲んでいる時もあれば、彼らが先客として飲んでいる時もある。そのどちらともせよ、俺の顔を見ると、決まって「あ、こうちゃんっ」と広げた手のひらを胸元に持っていって小刻みに振る。屈託のない髭の生えた恵比寿顔を向けられると、重労働で疲労が蓄積した身体も、我が儘な顧客のクレームで荒ぶった心も、思いなしか癒されてゆく気がしていた。けれど、今日は場が悪い。同じ店内の片隅で、先輩たちと飲んでいる俺の姿を見つけて、彼らはどういう態度をするのだろう。いつもと変わらずに遠慮がちに可愛らしく腕を挙げ、必要以上に手を振るのだろうか。口髭と顎髭を蓄えた図体の大きな男が二人揃って。
 俺が会社の先輩たちと飲みに来ているのを直ぐさま察して、臨機応変な対応をとってくれるだろうか。恋の魔法は、甘さを感受する神経をより鋭敏にさせ、苦みを受容する精神を鈍麻させる。心は恋に、体は酒に酔いしれた彼らに、そこまでの配慮をする余裕があるのだろうか?俺は額に脂汗が吹き出てくるのを感じながら、ゆっくりと視線を足下へと落としていった。

 「どうしたの?元気ないね。こういうお店初めてで緊張してるの?」
 先程、注文を取りに来た“たかし”が、俺の顔を伺っている。気が付けば、ミネやアイス、先輩のボトルやカクテルの入ったタンブラーを、俺たちのテーブルまで運んできていた。間近で改めてみると、“たかし”という青年、なかなかいい雰囲気を放っている。スクエアに広い顔には短い髪型が映え、一重の線の細い両目も、恋い焦がれる毅先輩とどことなく被っていた。肉付きの良さも、他の店員とは一目瞭然で、店で統一されたストレートのジーパンは、今にもはち切れそうだった。素振りや語気さえ、男らしくしてくれたら、十分に俺のお眼鏡に適う男だった。
 「先輩そっちのけの、いつもの小生意気な耕太らしくないぞ。お姉さん方々にビックリしてんのか」
 居酒屋での酒が引きずっているせいか、毅先輩の笑みは何処か品がない。勿論、先輩たちよりはこの世界に精通している筈の俺は、物珍しい事なんて一切なかったが、ノンケの先輩たちには、至極当たり前な動機付けをされてしまった。俺の思い過ごしかも知れないが、そんな酒に引率された、だらしのない笑顔の中に、誇らしげな表情も含まれている様な気がした。
 「耕太、若いんだから、元気なくてどうする?まぁ、元気がないときはアレが一番だな、な?たかし?」
 毅先輩の一言に、先輩の水割りを作っていた“たかし”がマドラーを回す手を止めた。そして、意味が解らない村八分の俺を除いた全員が、一斉に吹き出していた。
 「あそこのトイレで、しゃぶってもらってこいよ。たかしの筆おろしは、まさに“筆舌”に尽くしがたい。ションボリ息子も、一気に鎌首もたげるぞ」
 豪快に笑う毅先輩に続いて、中島先輩や近藤先輩も遠慮がなかった。毅先輩の一言で、漸く村の一員にはなれはしたものの、とてもじゃないが、同じように笑う気が起きない。それどころか、酷く憤る自分がいた。
 「何言ってるんすか!先輩」
 カウンターでじゃれ合う2匹の大熊もそっちのけで、俺は我にもあらず先輩に楯突いてしまった。俺の気も知らず、先輩たちは相も変わらず笑い転げ、たかしの持っているマドラーが、グラスの縁に小刻みに当たって、カチカチと音を立てていた。
 「毅さん、刺激が強いってば。でも、案外、男もいいものよ。耕太くん、男前だからサービスしちゃう。溜まったらいつでも来てね。彼女じゃ物足りなくなっちゃうかもね」
 身を呈した下ネタで、客の心を掴む接客も、この世界では実に普遍的な事で、俺は笑い所がない。いや、正確に言えば今日は笑えない。ユーモアの裏側には、差別や軽蔑という念が、大なり小なり含まれている。チンポをしゃぶる男の話なんて、先輩たちにとっては良い酒の肴になりそうだった。けれど、俺はそんな事に憤りを感じたわけではない。先輩たちが美人に敏感で、巨乳とあらば、ここぞとむしゃぶりつく姿となんら変わりがないし、ヘテロセクシャル曰く、自然の摂理に反する少数派と常に糾弾されてきた俺は嘲笑されることにも慣れている。ヘテロもホモもバイも性趣向に違いはあれど、人を好きになる感情だけは万国共通、総ての人に於いて最大公約数だと思っている。

 居酒屋で飲むカクテルよりは、恐らくアルコールが強い。ジンの多めに入った炭酸水が、目の前で絶え間なくプチプチと弾けている。未だ、乾杯も終えていないのに、血潮がたぎり、顔がカッと火照ってくるのを俺は抑えることが出来なかった。作り終えた水割りを毅先輩の前に差し出す、たかし。
 素朴であどけない、頓狂な面持ちのたかしが、先輩のモノをしゃぶった?嘘だろ?先輩。
 先輩、酔ってて俺をからかっているんだ?たかしは、お客を楽しませる定石を打っただけだろ?

ヤロウ > ず〜〜〜っと、前から”あこがれ”ですっ! どんなに文字がびっしり詰まっていても心にするるるっと入ってくるんです。自分のなんか行間空けても、何度も読み返さないと、何言ってんだか・・・やっぱり、すんごいです! この話の続きも楽しみにしています。 (8/31-18:17) No.370
Bimylove > はじめまして、アライグマさん。レスを入れないなら入れないで済む訳ですが ちょっと私には読みづらくて。ストーリーは惹かれるのですが 興味の対象でない部分の説明が詳しすぎて。例えば店内の様子や2人組の説明など。Hシーンに至るまでの展開は大変重要ですが 詳しい方がいい幹の部分とあっさり目の描写が適した枝の部分とがあると思いますので もう少しその辺りの強弱をつけて頂けると、と思います (8/31-20:24) No.372
アライグマ > ヤロウさんって、ずっと昔、その昔。僕が初めて投稿させて貰った、ルート営業マンさんのHPで、レスをくださったヤロウさん?ですね?あの時はとても励みになりました。今でも、しっかり保存していたりします。ありがとうございます。^^/ 今回、ご希望にそう話にならないかもしれませんが、完結目指して頑張ります。 (9/3-00:44) No.377
アライグマ > こんにちは、Bimyloveさん。貴重なご意見、ありがとうございます。小説等、集中力がないために、殆ど読まないのですが、時には他人の作品に目を通し、徐々に色々な技法を学んでいけたらな、と思います。とりあえず今回の話、この流れでダーー、といかせてください。皆さんのご意見は、次回作で反映させていただきます…っていつになることやら^^; (9/3-00:52) No.378
Angel pakuri > そう、まずは完結まで。アライグマさんの書きたいところとりあえず全部書ききること。静観しております。それから……エロ小説というのは、「万人に受けるということは、まずあり得ない」ですから、読み手の批評と感想は分けて受け入れるようにしておいた方がいいよ。だれの意見も受け容れなかったおいらのような者もいるけど、独りよがりの文章にならんように気を付けて(独りよがりの内容、これはいいです、それぞれ嗜好の問題なんやから)おーーーい、ぱくちゃんってば、マジレスしてるじゃん (9/3-12:18) No.380



アライグマさん 投稿日:2003/08/28(Thu) 23:52     Back Top Next
大きな先輩小さな後輩(2)
■ ぱくりのお気に入りお宝集 ■ ◆オリジナル作品シリーズ◆




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送